こんにちは。特定非営利活動法人 越境先生です。
私たちは2026年4月、都道府県ごとに先生の兼業に関するルールや許可の実績をまとめた「教員兼業ポータル(β版)」を公開しました。

公開から半年あまりがたち、全国の教育委員会への問い合わせはおよそ半分まで進んでいます。
この記事では、ここまでの調査で分かったこと、問い合わせを続ける中で感じたこと、そしてそこから私たちが考えている仮説を、中間報告としてお伝えします。
まだ途中のデータであるため、確定的な結論ではなく「今の時点で見えていること」としてお読みいただけたら幸いです。
教員兼業ポータルとは
公立学校の先生が、学校以外の場で仕事や活動をするときには、原則として勤務先を管轄する教育委員会の許可が必要です。教育委員会とは、都道府県や市区町村に置かれ、公立学校の運営や先生の人事などを担当する行政の組織です。
ところが、「どんな活動なら許可されるのか」「どうやって申請すればいいのか」「実際にどれくらい許可されているのか」といった情報は、自治体ごとにばらばらで、外からはほとんど見えません。
行政職員の兼業については国(総務省)による調査がありますが、先生を対象にした同じような調査は、私たちが探した限り国内にありませんでした。
そこで越境先生では、各都道府県の教育委員会に直接問い合わせ、次のような情報を集めて一覧にしています。
・兼業に関する規定の有無
・規定の内容とその根拠
・兼業の承認(許可)の実績
・具体的な事例
・問い合わせ窓口
※掲載している情報は、すべて越境先生が問い合わせて得た回答にもとづいています。最新の情報や実際の申請の詳細については、各自治体の窓口に直接ご確認ください。

なぜこの取り組みをしているのか
理由は大きく二つあります。
ひとつは、学校の外で活動してみたい先生にとって、判断の手がかりになる情報がほとんどないことです。
私たちのもとにも「自分の自治体では申請できるのか分からない」「誰に相談すればいいのか分からない」という声が届いています。
もうひとつは、行政の側にも、先生の複業についての知見や前例がまだ少ないことです。
どう扱えばよいか分からないまま、慎重な対応にならざるを得ない状況もあるのではないかと考えています。
なお、先生の複業というと「お金のため」と受け止められることも少なくありません。しかし、私たちが関わる研究では少し違う姿が見えています。
トヨタ財団の助成を受けた研究の一環として、2026年9月の日本教師教育学会で報告されたウェブアンケート(常勤の先生457人が対象)では、複業の経験がある先生ほど、メリットとして「人間関係・ネットワークの拡大」(83.5%)、「視野や価値観の拡張」(76.9%)、「専門性・スキルの向上」(72.5%)を挙げる割合が高くなっていました。
この調査は教育系ウェブサイトの利用者を対象にしたもので、全国の先生の姿をそのまま表すものではありませんが、複業が学びや成長の機会になりうることを示す材料のひとつだと考えています。
また2026年9月には、宝塚市議会の一般質問で、先生が学校の外で学び経験を積む「越境」が取り上げられ、越境先生の取り組みもご紹介いただきました。
▼ 宝塚市議会 議会映像(2026年9月28日 中山ゆうすけ議員 一般質問)
https://smart.discussvision.net/smart/tenant/takarazuka/WebView/rd/speaker_minutes.html?speaker_id=41&search_index=99
※越境に関する質疑は、動画の後半(およそ49分〜56分)です。
答弁は、本業への影響を心配する慎重な内容だったと受け止めていますが、こうした議論が公の場で始まったこと自体が大切な一歩だと感じています。
先生が学校の外で得た経験は、授業や学校づくりを通じて子どもたちに還元されます。そのための第一歩として、まずは「今どうなっているのか」を誰もが確認できる状態をつくりたいと思っています。
調査結果の概要
ここからは、調査結果の概要と途中経過についてまとめます(2026年10月時点)。
回答状況:およそ半数
最初にメールや問い合わせフォームでお願いした段階で、回答をいただけたのは全体の約3割でした。その後、電話での問い合わせを重ね、さらに約2割の回答をいただき、現在はおよそ半数の都道府県から回答を得ています。
電話による問い合わせは、北海道・東北・北関東まで一巡したところです。
独自のガイドラインがあるのは、回答済みのうち埼玉と奈良の2県
兼業について、法律の条文とは別に、目的や事例、申請の手順などをまとめた独自の手引き(ガイドライン)を確認できたのは、回答をいただいた中では埼玉県と奈良県の2県でした。
埼玉県は、兼業の目的を「学び」などに明確に位置づけたうえで、望ましい事例や申請の流れを40ページほどの資料にまとめています。
奈良県は数ページの資料ですが、同じように兼業についての考え方が整理されています。
それ以外の自治体では、「兼業の規定はある。根拠は地方公務員法と教育公務員特例法」という回答が中心でした。
これらは公務員や先生の働き方を定めた法律で、兼業には許可が必要であることなどを定めています。ただ、法律の条文だけでは、どんな活動がどんな基準で許可されるのかまでは分かりません。
先生の立場から見ると、判断の目安としては十分に明確とは言いにくいというのが、私たちの率直な所感です。
また、承認の事例については「非公開」とする回答も多く見られました。
申請数・許可数は収集を始めたところ
2回目の問い合わせからは、兼業の申請数と許可数もあわせてお聞きしています。
現時点で集まっているのは全体の2割ほどです。
問い合わせを続けて分かったこと、見えてきた仮説
自治体によって変わる対応
実際に調査を進めたことで、数字には表れない部分として、見えてきたことがあります。
その一つが、教育委員会ごとの対応の違いです。
問い合わせフォームから送ると、すぐにメールで回答をくださる自治体がありました。電話をすると担当の方にすぐつないでいただき、「1、2週間後に送ります」と伝えられた期日どおりに回答をくださった自治体もありました。こうした対応には、本当に感謝しています。
一方で、次のようなケースもありました。
- 窓口で「担当に確認します」と言われたまま、担当部署や担当者が分からない
- 何度か電話をしても「まだ検討できていない」という状態が続き、回答が先送りになる
- 「回答するかどうか自分では判断できない」と言われ、組織としての回答が得られない
- 窓口の部署に問い合わせが届いていない、または担当部署まで伝わっていない
4〜5回電話をやりとりして、ようやく回答にたどり着くこともありました。行政の窓口は平日の日中のみのため、お互いに電話がつながらないことも多く、一件ごとに時間がかかります。
また、回答の内容が自治体間で似通っている点も印象的でした。
「規定はあり、根拠は法律、承認事例は非公開」という形の回答が、いくつもの自治体で見られました。
他の自治体の掲載状況を見て、同じ形で回答してくださったと思われるケースもあります。
さらに、自治体の問い合わせフォームによっては「県民か、県民以外か」を選ぶ欄があります。その県に住む人や、その県で働く先生からの問い合わせのほうが、優先して対応されやすい可能性も感じています。
先生の「やりたい」が、制度の手前で止まっている可能性
ここからは、上の事実をもとにした私たちの解釈と仮説です。まだ検証できていないものも含みます。
法律上、先生の兼業は許可を得れば認められるものです。
しかし、窓口や担当がはっきりしない、判断の基準が見えない、回答に時間がかかるといった状況は、実際に先生が兼業を申請するときにも起きているのではないかと考えています。
越境先生も関わる研究で、学校を離れた元教員の方々にお話を聞いた際にも、許可が下りるまでに1〜2か月かかった、校長先生によって書類の要不要が違った、という声がありました。
申請の手間や見通しの立たなさが積み重なると、校長先生も申請を受け付けにくくなり、学校の段階で話が止まってしまう。そうした流れが生まれている可能性があります。
個人の問題ではなく、組織として判断する仕組みの問題ではないか
電話でやりとりした担当の方の中には、とてもお忙しそうな方もいらっしゃいました。回答が得られなかったケースも、担当の方個人の姿勢というより、「誰が判断し、誰が責任を持つのか」が組織として決まっていないことが背景にあるのではないかと感じています。
そうだとすれば、担当の方にとっても負担の大きい状況です。
これは個人の問題ではなく、組織として判断する仕組みの問題ではないかと感ざるをえません。
ガイドラインの有無は、兼業のしやすさにつながるのか
独自のガイドラインがある自治体では、申請の目的や手順がはっきりしているぶん、先生も申請しやすいのではないかと考えています。
一方で、ガイドラインがあっても中身が曖昧なままでは、状況は変わらないかもしれません。
これを確かめるために、47都道府県すべての「申請数」「許可数」「教員数」をそろえ、許可の割合を比べたいと考えています。
教育委員会の姿勢と、現場の働きやすさの関係
教育委員会が現場を支える取り組みに力を入れている地域では、先生も働きやすいと感じている、という声を私たちはこれまでに何度か耳にしてきました。先生の働き方を良くしていくには、教育委員会の協力が欠かせません。
将来的には、教育委員会の対応や制度の整い具合と、先生の離職率や採用試験の倍率などとの間に関係があるのかどうかも見ていきたいと考えています。ただし、これは長い時間をかけて検証していくテーマです。
回答がないことを、どう受け止めるか
現時点で約半数の自治体からはまだ回答をいただけていません。これをどう受け止めるかは、見方が分かれるところだと思います。お忙しい中で対応が難しい事情もあるはずです。
そのうえで私たちは、回答をくださった自治体については、先生からの兼業の相談や申請にも、誠実に向き合っていただけるのではないかと受け止めています。
ポータルをこんなふうに使ってほしい
2026年3月に開催したイベントで、約20人の先生方に、都道府県ごとの状況を色分けした地図をお見せしました。
会場からは驚きの声が上がり、皆さんがご自身の自治体の状況を食い入るように見ていたのが印象に残っています。
このポータルは、まず次の方々に使っていただきたいと考えています。
・複業や学校外での活動に関心があるけれど、「自分の自治体は実際どうなのか」が分からない先生
・先生になりたいけれど、ほかにもやりたいことがある学生
教員採用試験を受ける自治体は、地元か大学のある地域から選ぶ人がほとんどです。
そこに「先生の挑戦を応援している自治体だから」という選び方が加われば、取り組みを進める自治体が報われる流れも生まれるかもしれません。
また、各自治体の状況が並んで見えるようになることで、教育委員会の皆さまにとっても、他の地域の取り組みを知り、情報を整えるきっかけになればうれしく思います。
今後について、そしてお願い
まずは、残りの都道府県から回答をいただき、情報を充実させることが第一です。
実際に、教育関係のメディアの方からも「取り組みには意義があるが、回答が半分の段階ではデータとして紹介しにくい」というご意見をいただいています。
まずは回答数を増やす(40都道府県を超えるころには、データとしての価値が大きく高まるのでは?と考えています)その後、申請数・許可数のデータをそろえ、先ほどの仮説の検証に進みたいと考えています。
将来的には、市区町村レベル(約1,700自治体)にも調査を広げる予定です。
ただ、今は越境先生のメンバーが一人で電話をかけ続けている状況で、正直なところ手が足りていません。
そこで、次のような形でご協力いただける方を探しています。
問い合わせを一緒に進めてくださる「ポータルサポーター」
教職経験の有無を問わず、問い合わせを一緒に進めてくださるサポーターを募集します。問い合わせの手順やコツはこちらで共有します。
空いた時間をつかってで構いません、ぜひ調査にご協力ください。
当事者として問い合わせていただける現役の先生
ご自身の自治体の教育委員会に、当事者として問い合わせていただける先生方を募集します。外部団体の私たちが問い合わせ絵をするよりも、回答につながりやすくなる可能性があります。
すでに回答いただけている自治体についても、追加で詳細な情報をいただけるかもしれません。ぜひご協力ください。
広報・取材にご協力いただけるメディアの皆さま
先生の兼業をめぐる情報の現状を、広く社会へ伝えていただけませんでしょうか。追加で必要な情報があれば、可能な限りご提供いたしますし、取材対応も可能です。
ぜひお力添えください。
関心をお持ちいただけた方は、下記までお気軽にご連絡ください。
▶︎ 越境先生窓口:info@ekkyosensei.jp
※「件名:兼業ポータルサポーターについて」としていただけると幸いです。
おわりに
お忙しい中、問い合わせにご協力くださった教育委員会の皆さまに、あらためて感謝申し上げます。
先生が学校の外で学び、その経験を子どもたちに還元できる環境は、制度と情報の両方が整ってはじめて実現します。
この兼業ポータルが、先生が一歩踏み出すための小さな後押しとなり、行政の皆さまと一緒に環境を整えていくきっかけになればと願っています。
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
特定非営利活動法人 越境先生
